IT成長企業とIT停滞企業の教訓

IT技術者が少ない企業やこれからIT技術者を育てていくという企業の、IT技術者の役割とはなんでしょうか。IT技術者の多くは、ITメーカーやITベンダーに所属する専門家が多いのですが、ユーザー企業に所属するIT技術者は立場が全く異なります。

目次
1.ITの技術者とは
2.IPAのIT人材白書2020
3.興味深い調査比較
4.IT人材が少ない企業のIT技術者の役割
5.経営者のIT企画・上流工程に対する認識
6.まとめ

1.ITの技術者とは

またユーザー企業であっても、大企業のIT担当と中小規模のIT担当では、内部のIT組織の規模やITの人数が異なることから、IT担当の役割も大きく異なります。
それではIT人材が少ない企業におけるIT担当の役割を、IT人材白書2020の調査項目から考えてみます。

2.IPAのIT人材白書2020

情報処理推進機構のIPAが発表をしているIT 人材白書 2020のなかで、ユーザー企業に対する調査結果がいろいろと掲載されています。
この調査のなかで企画・設計など上流工程の内製化を進めている企業とそうでない企業の比較が載っています

3.興味深い調査比較

企画・設計など上流工程の内製化を進めている企業と内製化を進めていない企業の調査内容があります。
この調査のなかで、上流工程の内製化を進めている企業が、全体の80%以上で実施していると回答をした項目が2項目ありました。
80%を超える項目の内容は以下の2項目です。

企画・設計など上流工程の内製化を進めている企業

・全社ITの企画      :85.5%

・情報セキュリティの管理 :84.3%

一方、IT業務の内製化を進めていない企業の同項目の数値は以下の通りです。

IT業務の内製化を進めていない企業

・全社ITの企画     : 59.2%

・情報セキュリティの管理 :58.6%

この2項目の両者の差はどちらも25ポイントほどと大きな差が開いています。
しかし他の調査項目を比較してみても、両者ではこれほど大きくは開いていないようです。

つまり、この調査比較から読み取れるものは、ユーザー企業が内製化を進めているなかで、多くの企業が注力をしているものは、ITの企画と情報セキュリティであるということです。
一方IT業務の内製化を進めていない企業との差が大きいため、今後両者の差はますます開いていくことが想定されます。

なおこの資料の概要版は無料で閲覧できます。
詳細は以下のサイトから確認できますので、興味のある方は、ぜひご覧ください。

IT人材白書2020概要
本格的なデジタル社会が到来し、社会構造を見直すデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが注目されています。
「IT人材白書2020」では、重要性の高い領域である「DX取り組み企業やDXに対応する人材」、「IT企業やユーザー企業におけるIT人材の場の拡がり」という観点から、企業やIT人材の現状を把握するため調査・分析しました。

情報処理推進機構のホームページ:IT人材白書2020概要

4.IT人材が少ない企業のIT技術者の役割

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さてこの調査内容とは別に、IT人材が少ない企業のIT技術者の役割とは、どのようなものが重要かを考えてみます。

まずIT人材が少ない企業では、自社でIT製品やソフトウェアの開発を行うことは困難です。
とくにITが苦手な経営者の場合には、IT担当に技術的な指導をすることも難しいため、自社での開発はますます困難になるでしょう。

自社でIT製品やソフトウェアの開発を行うことが困難であるならば、IT技術者の役割は、適切なIT製品を探し出して最適なIT製品を選択すること、あるいはソフトウェアの開発であれば、自社に最適なソフトウェアとなるように、開発の要件(具体的な内容)を提示できるようにすることなどが重要な役割になります。

またIT製品の選択においても、ソフトウェア開発においても、自社で利用するためのITに対するセキュリティ面は充分に備えていることは、導入の前提条件となるでしょう。

ところで最適なITの選択やソフトウェアの開発と、それらに伴うセキュリティという2項目は、先ほどご紹介をしました、企画・設計など上流工程の内製化を進めている企業の重要な2項目と同じだと思いませんか。

5.経営者のIT企画・上流工程に対する認識

本当は、IT技術者が少ない企業ほど、ITの企画や上流工程に深く関わることが重要なのです。
ところが経営者にその認識が低い場合には、ITの企画や上流工程の不備やあいまいさが発生し、その不備などが下流工程のITの選択や開発に大きな影響を与えてしまいます。
そのため結果としてIT導入がうまく進まなくなってしまうような一因を作ってしまうことがあります。
しかも、もともとの原因がITの企画や上流工程にあると気がつかないまま、IT導入がうまく進まない状況に陥ることもありますので、この点は充分にご留意ください。

またユーザー企業のなかでも、大企業であれば、専任の組織で体制が組まれている場合には、自社でIT製品を開発したり、ソフトウェアを開発したりすることもできますが、体制が小さな場合には、利用しているITのサポートから運用まですべてを対応する何でも屋のIT人材になってしまいやすくなりますので、この点も留意が必要です。

もし仮に経営者が、何でも屋のIT人材に企画や上流工程に関わるように指示をしたとしても、企画やITの上流工程のスキルがなければ、まったく機能しないでしょう。つまり形だけの体制では、IT導入を上手に進めることができなくなってしまいます。

そうならないためには、最初に経営者がITの企画と上流工程が重要であると認識する必要があります。

この認識をしたうえで、最初は何でも屋のIT人材であっても、徐々にITリーダーの経験と上流工程のスキルアップを図って、IT企画に関われるようなIT人材のキャリアパスを作ってあげることで、何でも屋からの脱却を図ることができるでしょう。

6.まとめ

大企業のIT技術者やITベンダーのIT技術者と、IT技術者が少ない企業のIT担当の役割は大きく異なります。

計画的に知識と経験を蓄積していけば、IT人材は優秀な人材へと育っていくことでしょう。

最後までお読み頂きましてありがとうございます。今回のコラムが皆様の何かのヒントになれば幸いです。

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