IT成長企業は、ITが全体最適の面で結束を図り、IT停滞企業は、ITを部分最適の点で寄せ集める

IT経営という言葉が使われだしてから、ずいぶん時間が経過していますし、IT経営という言葉自体は中小企業白書の中でも多く使われていますので、皆様の中でIT経営という言葉の認知度は高くなっているのではないかと思います。
ところがIT経営の実践という観点では、まだまだ中小企業の多くの経営者が継続的な課題として取り組まれています。しかし中小企業の主な課題のなかには、ITマネジメントの課題も多く含まれています。

そこで今回は、今一度「IT経営とは」というテーマで、中小企業が日頃から取り組まれている内容を部分最適と全体最適の視点で解説をします。

1.IT経営とは

IT経営とは、ITを活用して効率の良い経営を行うことで、生産性の向上、業務効率の向上により質の高い経営を目指します。

しかし経済産業省の「IT経営について」に記載されているように、ただ現業をIT化するだけでは、IT投資本来の効果が期待できないとされています。

・目的なく、ただ現業をIT化するだけでは、IT投資本来の効果を享受することはできない。自社のビジネスモデルを再確認し、経営から視点を得ながら、現業とITとの橋渡しを行っていくことが重要

・経営・現業・ITを融合させ企業価値の最大化を目指すことが「IT経営」。
‐ 経営は、経営戦略という「視点」を持ってこれに意思を与え、
‐ 現業は、現場の「情報」を活かすという形でこれに参加し、
‐ IT部門は、業務をまわす「メカニズム」(情報システム)を提供する

 出典:「IT経営について」経済産業省商務情報政策局

この点は重要なポイントであり、実際にIT導入をしたのちの、成果やIT導入前とIT導入後の費用対効果において大きな影響を与えます。
そのためのIT導入以前の検討プロセスとして、経営課題の抽出、企業で運用できるITスキル(リテラシー)獲得、詳細な業務プロセスの徹底した理解などがあります。

これらの事前の準備や分析・評価などをしっかりと活動してから進めることが、実はIT導入の成果を上げるうえで大変重要なプロセスになります。

2.IT経営のメリット

ITを導入するだけでそれなりに大きな効果を容易に得られるものから、業務プロセスや運用などを情報システム化し充分に使いこなすことで初めて成果を上げるものまで、さまざまなITがあります。
この点がIT経営を複雑にしている要因の一つですが、概ねIT導入によるメリットは以下の項目があげられます。

IT導入によるメリット

・ITを利用することで、コミュニケーションが容易になる。

・ITを利用することで、場所や時間の制約から解放される。

・ITを導入することで、定型業務の効率化が図れる。

・ITを活用することで、見えなかったところが可視化できる。

・ITを活用することで、生産性、品質、安全性の向上を図ることができる。

ITのメリットは他にも多くの点があげられますが、中小企業においては記載した内容が下のほうの項目になるほど、前述の準備や検討項目が増え難易度が高くなっていくことになります。

3.IT経営推進の課題

IT経営を推進するうえでボトルネックとなるようなもの、あるいはこの課題があるためにIT経営がなかなか推進できないような問題もあります。
中小企業において課題として、よくお聞きする主な項目は以下のとおりです。

中小企業の主な課題

・経営戦略の中に、IT戦略を加えなければならないが、そもそもIT戦略を立てたことがないので、戦略の立て方がよくわからない。

・実際の業務フローとITシステムの運用フローの整合性を取る必要があるが、業務フローの詳細を立てられる人がいないため、ITシステムと実際の業務フローの調整がむつかしい。

・IT人材がいないために、IT導入や必要機器の検討が思うように進められない。

・ITリテラシーが低いため、ITを導入しても全社での利用がなかなか進まない。

・セキュリティやネットワークなど専門分野が多くて、社内の要員だけではスキルがついていかないところがある。

これらの課題によりIT経営が順調に進まないというような部分があれば、先にその対策を立てることで課題解決をすすめながらIT化も進めることができます。この対策をたてることが難しい場合には、一時的に外部の力を借りて対策をすすめることで効率よく進めることも可能になります。

またIT経営を推進していきますと、どこかで壁のようなものにあたり、そこからなかなか進めないことがよく起こります、それがIT経営の壁と呼ばれるものです。

イメージ画像

4.IT経営の壁

IT経営を最初に進めるときは、ある特定の部署からテスト的に初めて、徐々に全社に展開をすることが多いのですが、下の図にありますように。ある段階を超えるときに大きな壁となって推進を阻む力が働きます。

最初の壁は経済産業省の資料には記載されていませんが、ステージ1からステージ2に移る段階で、特定の部署から他の部署に広げるときが壁になることがあります。
例えば、あるITツールを導入して効果があったため、他部署に展開しようとした際に、他部署の長が、ITスキルが低いあるいはITが嫌いなどの理由から、推進が進まないケースがあります。同じように他部署の長は賛成でも、他部署内のメンバーに反対派がいる場合もなかなか進まないことがあります。

IT経営の壁
「IT経営について」経済産業省 商務情報政策局の資料(出典)を基に加工

最初の壁を超えるとステージ2に移行します。それぞれの部門で展開ができるように部門内では全社で利用が進みます。
その次のステージに移行する際に壁となるのが部門の壁です。それぞれの部門からさらに効率化を目指したり、生産性の向上を目指したりするためには、部門間の連携や協力が必要となってきますが、ここがまた大きな壁となります。
部門間の壁を超えるとステージ3に移行します。

その次のステージ4は企業間で活用する段階になりますが、ここでも会社の壁となって推進の障壁となってきます。
各ステージを着実にクリアしていくことで、IT経営も着実にレベルアップしていきます。

5.部分最適と全体最適

それぞれの部署内で課題が解決し、それぞれの部門で利用が進んだ場合、次のステージに向かいますが、次のステージでは、部門間でのIT活用になります。この時によく障壁となるのが、部分最適の考え方と全体最適の考え方の衝突です。

よくある例として、部門内では順調に進んでいたのが、全体最適の視点で検討をした場合、ある部署の業務効率化を進めるため全体最適の視点で検討した場合、最も効果の高い施策は他の部署がその業務を実施することになった場合です。

ある部署の生産性を上げるために、他の部署が協力する形になりますが、他の部署のメリットが全くない場合には、モチベーションが低くなり、上手に進められないことが起こります。

特に全社で全体最適の考え方が浸透できていない場合には、考え方が理解できず大きな不満となることもありますので、いろいろな面で対策が必要になってきます。
でも最初に進めることは、全体最適と部分最適の理解を深めて、部分最適の追求が全体最適にならないことを全社でよく浸透をする活動からすすめることが、結果として早道になることでしょう。

最後までお読み頂きましてありがとうございます。今回のコラムが皆様の何かのヒントになれば幸いです。

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